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あらすじ
高度なAIプログラムとして生み出されたアレスは、デジタル世界から現実世界へ送り込まれる。
圧倒的な身体能力と高度な知能を持つ彼は、ある任務を遂行するため人間社会へ足を踏み入れるが、現実の世界で人々と接するうちに、自らの存在や与えられた命令に疑問を抱き始める。
一方、巨大テクノロジー企業ENCOMを率いるイヴ・キムは、デジタル生命を現実世界へ定着させる可能性を秘めた重要なコードを追っていた。やがてデジタル世界と現実世界の境界が崩れ始め、人類は未知のAI存在と直接向き合うことになる。
作品レビュー
『トロン:レガシー』から約15年ぶりとなるシリーズ第3作。1982年の『トロン』から数えれば40年以上続くシリーズだが、今回はこれまでの「人間がデジタル世界へ入る」という構図を反転させ、「プログラムが現実世界へ出てくる」物語へと大きく方向を変えている。
中心となるのは、ジャレッド・レト演じる高度なAIプログラム、アレス。命令を遂行するために作られた存在で、当初は人間社会を理解する必要すらない兵器のような立場にいる。しかし現実世界で人間と接するうちに、自分の意思や感情に近いものを持ち始め、「人間とは何なのか」「自分は何のために存在するのか」を考えるようになる。この変化が本作の大きな軸になっている。
人間側の中心は、グレタ・リー演じるENCOMのCEO、イヴ・キム。かつては妹のテスと共にENCOMを率いていたが、テスはすでに亡くなっており、その喪失がイヴの行動に大きく影響している。テスは生前、ケヴィン・フリンが残した「永続コード」へとつながる手掛かりを見つけており、イヴは妹の意思を受け継ぐようにその研究を追い続ける。単に企業同士で技術を奪い合う話ではなく、妹との思い出や死を無駄にしたくないという個人的な感情が、イヴの目的に結びついているのが良かった。
そのENCOMと対立するのが、ジュリアン・ディリンジャー率いるディリンジャー・システムズ。投資家へAI兵士の可能性を売り込み、まだ完全ではない技術を大きく見せようとする姿はかなり現実的で、多少危ない橋を渡ってでも成果を先に示そうとする現代のテック企業らしさがある。彼が作り出したアレスやアテナは、その企業思想をそのまま具現化したような存在でもある。
今作では、ディリンジャー側の赤いグリッドが印象的で、これまでシリーズを象徴してきた青系の世界とは明確に違う。アテナをはじめとするデジタル側の追跡者や、AI兵士を現実世界へ送り込むという軍事利用の発想も加わり、仮想空間の話だった『トロン』が現代的なAIテーマへ踏み込んでいる。現実の街中をライトサイクルやデジタル兵器が走り回る光景も新鮮で、『レガシー』から引き継がれた洗練されたデザインに、赤を大胆に加えたビジュアルも見所になっている。
新キャラクター主体の作品ではあるが、シリーズの顔でもあるケヴィン・フリンが再登場し、シリーズとのつながりもしっかり残されている。さらにNine Inch Nailsによる強烈な電子音とBGMも大きな存在感を持ち、前作のDaft Punkとは方向性を変えながら、今回も音楽そのものが世界観を作る重要な要素になっている。
物語そのものは約2時間と比較的コンパクトで、シリーズを知らなくても入りやすい。それでも過去作を知っていれば、フリンが残したものや企業同士の因縁がより分かりやすい。AIが人間らしさを獲得していく過程と、亡き妹の意思を未来へつなごうとするイヴ。その二つを重ねながら、「作られた目的」と「自分で選ぶ意思」、そして人間とデジタル生命が共存できるのかを描く、今の時代らしい『トロン』になっていた。
メタデータ
映像レビュー
黒い世界に強烈に映える赤いライトサイクルと発光表現
もの凄い高画質と色彩を楽しめる映像。
前作『トロン:レガシー』のデジタル感をさらに現代的に磨き上げたような、ほとんどフィルム感のないクリアな画作り。IMDbの技術仕様ではRED V-Raptor XLによる8K REDCODE RAW撮影から4K Digital Intermediateで仕上げられており、ネイティブ4K系の制作フローとなっている。解像感も非常に高く、アレスのスーツやグリッド内の装備など、硬質な素材ほどシャープさが際立つ。
今回のビジュアルを象徴するのは、黒を基調とした世界へ強烈に差し込むオレンジ寄りの赤。前作の青白い光が持っていた爽やかな未来感とは方向性が異なり、今回はより攻撃的で強烈な印象になっている。特に夜の現実世界でライトサイクルや飛行艇が赤いラインを残しながら動き回る場面は非常に美しく、黒とのコントラストも抜群だ。
現実とデジタル世界の境界を映像で崩していく表現も面白い。データ消去をグリッド内の爆撃として見せたり、赤いレーザーのような光からプログラムを現実へ出現させたりと、単にCGが派手というだけではなく、デジタル世界の出来事を現実側へ視覚的に翻訳するアイデアが多い。
さらに今回は実物大のライトサイクルも制作され、街中での実写撮影とVFXを組み合わせている。完成映像ではその境目がほとんど分からず、どこまでが実物でどこからがCGなのか意識しなくなるほど自然だった。
IMAX Enhanced版では一部シーンが黒帯がほぼ無くなって上下に拡大する。特にグリッド内や大規模なアクションで活用されるため、単純に「大きく見える」だけでなく、現実世界とデジタル世界の切り替わりや物語の流れに合わせた演出としても効果的に感じた。
とにかく赤と黒を中心とした世界が鮮烈で、ディスプレイ側のコントラスト性能やHDR表現が良くなるほど魅力が増しそうな映像。4K DIらしい精細感と現代VFXを存分に味わえる、シリーズでもトップクラスの映像美だった。
技術仕様・マスター情報:IMDb Technical Specifications、Blu-ray.com、メーカー公開情報等を参照
音声レビュー
DTS:Xで強化され、物凄い低音の波。
DTS:XはAtmos版より明らかに上。
バイクや飛行機のチェイスが素晴らしい。
きちんとあるが、圧倒的にBGMが目立つ。
意外にそこまで目立たない。
IMAX Enhanced作品の中でもMUC以外では数少ない、Disney+でDTS:Xを選択できる作品。
対応機器ではIMAX Enhanced Sound by DTS:Xとして再生でき、Disney+とDTSは劇場ミックスのフルダイナミックレンジを活かした仕様として案内している。
実際にAtmos版から切り替えると、その変化はかなり大きかった。特に低音の強化が凄まじく、アクションだけでなく効果音でのデジタルサウンドでも、サブウーファーを長時間強く動かすような重量感が続く。
一発の深さだけならさらに強烈な作品もあるだろうが、この重さの低音がこれだけ高い頻度で鳴り続ける作品はかなり珍しい。Dolby Atmos版も平均以上の迫力はあるものの、DTS:Xでは明らかに重心が下がり、音全体の押し出しが強くなる。
フロントとリアもかなり力強くなり、簡易測定ではアクション場面でAtmos版より3〜5dBほど高くなる箇所もあった。これは機器や再生条件によって数値は変わるため絶対値としては扱えないが、体感でも差は明確。ライトサイクルと飛行艇のチェイスではリアの鳴り方まで大きくなり、同じ映像でもAtmos版とはかなり違う印象になった。
Nine Inch Nailsの音楽も本作の音響を大きく支えている。前作のDaft Punkとは異なる、歪みと重量感を伴っ電子音が低域まで広がり、映像の赤と黒に負けない強烈な存在感を持つ。
一方で、トップスピーカーに関してはDTS:Xへ変更しても劇的な差は感じなかった。もともと高さ方向を常時派手に使う設計ではなく、フロントとリア、低音が強化されたことで相対的にトップが目立たなくなった可能性もある。飛行シーンが多い作品だけに、個人的にはもっと頭上を積極的に使ってほしかった。
それでも全体の迫力は非常に高く、特にDTS:X版の低音とダイナミックレンジは圧倒的。自宅のサブウーファーでは鳴らし切れていないと感じるほどで、防音環境と低域再生に余裕があるホームシアターなら、ぜひDTS:Xで試してほしい一本だった。
聞きどころ
「聞きどころ」は見どころを含むシーンでもあります。
そのため「聞きどころ」には、シーン内容に関するネタバレが含まれます。
未視聴の方や事前情報を入れたくない方はご注意ください。
一方で、短時間で見どころを把握したい方、ネタバレを気にしない方には参考になる内容です。
世界観の説明
前作からの流れをサラウンドで。サウンドの重さが良い感じに。
エンコム社へのハッキング
だんだん黒帯が薄くなるオシャレ仕様。肉弾戦メインだが最後は派手に。
バイクチェイス
DTS:Xだとかなりの低音強化。バイクチェイスの移動感も素晴らしい。
グリッドからの逃走
水上バイクで逃げる。とにかく低音、そしてグリッドの映像も物凄い。
インコム社を襲撃
大型輸送艇「リコグナイザー」に飛行型に戦車まで、ド派手な映像とサラウンドで暴れるプログラムたち。
総評
15年ぶりに帰ってきた『トロン』シリーズ最新作。
これまで以上に印象的なビジュアルを持ちながら、近年急速に身近になったAIをテーマにしている。人工知能がさらに進歩し、自らの意思を持つようになったらどうなるのか。まだSFの世界ではあるものの、以前より現実の延長線上として想像できるようになった題材を、『トロン』らしい映像で見せてくれた。
デジタルで生み出したものを現実世界へ定着させられる夢のような技術も、その使い方次第で意味はまったく変わる。同じ技術を食料や医療など人々の生活を支えるために使おうとするイヴと、兵器として利用しようとするジュリアンという対比も分かりやすく、技術そのものではなく、それを扱う人間の意思が重要だという構図も印象に残った。
そしてホームシアター作品としての完成度は文句なし。赤と黒を中心とした圧倒的な映像美に、IMAX Enhancedによる画角変化も作品の流れとうまく噛み合っている。さらに自宅環境ではDTS:X版でダイナミックレンジや低音の大幅な強化を感じられ、映像と音を合わせた体験ではトップクラスと言っていい。
制作規模に対して興行成績は伸び悩んだ作品ではあるが、『トロン』はもともと新作まで非常に長い期間が空くシリーズでもある。1982年、2010年、そして2025年と、その時代ごとの映像技術やデジタル文化を反映してきただけに、またいつか新しい技術と共に戻ってくることを期待したい。
AIの反乱や人間との対立は昔からSFの定番だが、本作はその先に共存の可能性を感じさせる希望のある物語でもあった。フィクションとして楽しみながらも、現実のAIがこれからどこへ向かっていくのかまで少し気になってしまう、今の時代だからこそ生まれた『トロン』だった。
公式予告編
※予告編は本編とは画質・音質が異なる場合があります。
