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あらすじ
ガンマ線を使った実験によって、怒りや強い興奮をきっかけに巨大な怪物ハルクへ変身する体質となった科学者ブルース・バナー。
軍から追われる身となった彼は、ブラジルに身を隠しながら、自分の身体を元に戻す方法を探し続けていた。しかし、偶然をきっかけに居場所が知られ、ロス将軍率いる軍の追跡が再び始まる。
さらに、特殊部隊員エミル・ブロンスキーがブルースの力に執着し、軍の研究によって自身も人間を超えた存在へ近づいていく。
逃げ続けるブルースと、ハルクの力を兵器として利用しようとする軍。そしてその力を求めるブロンスキー。自分の中にいるもう一つの存在と向き合いながら、ブルースは再び巨大な力を解放することになる。
作品レビュー
『インクレディブル・ハルク』はMCU第2作というかなり初期の一本で、今見ると後のシリーズとはかなり違う、シリアスで暗めの空気が印象的。
2003年版『ハルク』とは別物で、実質的なリブートとしてスタートしている。当時はまだMCU全体の型も完全には固まっておらず、作品ごとの個性がかなり強い。本作もその一つで、ユーモア中心というより逃亡劇や軍事アクション、モンスター映画の要素を混ぜた作りになっている。
物語はブルース・バナーがすでにハルクとなった後から始まり、その経緯は映像で軽く触れるだけ。ブラジルのファベーラに身を隠しながら、一人で自分の身体を元に戻す研究を続け、「変身しないこと」そのものが目的になっている。
怒りや心拍数の上昇を抑えるために呼吸法や身体管理を徹底している描写も印象的で、冒頭ではヒクソン・グレイシー本人が指導者役として登場する。往年の格闘技好きなら、ここだけでも少し嬉しい。
軍から追われるブルースに対し、ロス将軍は彼を一人の人間というより兵器として見ている。ただし単純な悪役ではなく、危険な力を軍の管理下に置こうとする軍人として動いており、娘のベティを大事に思う父親としての気持ちも重なっている。
そんなブルースにとって、ベティとの再会は人間らしさを取り戻す重要な時間になる。ハルクも単なる怪物ではなく、ブルース自身が抑え込んでいる怒りや防衛本能が形になった存在として描かれている。
対照的なのが今作のヴィランとなる実戦経験豊富な特殊部隊員エミル・ブロンスキー。ブルースが力を捨てたいと願う一方で、彼はより強い存在になることへ執着していく。超人兵士計画によって能力を得た後も満足せず、「自分なら制御できる」と考えながら少しずつ人間離れしていく流れがいかにも敵役らしい。
最終的にはアボミネーションへ変貌し、終盤は完全にモンスターバトルと化す。ハルクとアボミネーションが街中で殴り合う重量感のあるバトルは、個人的にはMCUの中でもかなり好きなアクションだ。
そして、ずっとハルクの力を拒絶していたブルースが、最後には必要な場面で自分から変身を選ぶ。逃げるだけだった人物が、その力をどう使うかを少しずつ受け入れていく流れも分かりやすい。
また、途中でやたらマッチョな警備員が出てくるが、調べてみると1970年代のTV版でハルクを演じたルー・フェリグノ。しかも本作ではハルクの声も担当している。
さらにスターク・インダストリーズやシールドの存在が細かく入り、ラストにはトニー・スタークも登場。まだ始まったばかりのMCUながら、『アイアンマン』と同じ世界だということを明確に見せている。スターク・インダストリーズの名が超人兵士計画関連の設備に入っていることも確認できる。
『アイアンマン』ほど興行的には伸びず、ハルク役も後にマーク・ラファロへ交代した。それでも、エドワード・ノートン版ブルースの知的で神経質な雰囲気と、ハルクの圧倒的なパワーをたっぷり描いたこの作風は今でもかなり好きだ。
今のMCUから見ると独立色が強い一本だが、だからこそ初期ならではの荒々しさが残っている。単独ハルク映画として、もっと続きが見たかったと思わせる作品だった。
メタデータ
映像レビュー
HDRで大きく変わる炎と夜景の輝き
4Kらしい圧倒的な解像感があるかというと、そこまでではない。
ただし画質が悪いわけではなく、もともとのBlu-rayでもかなり良く見える場面が多かったため、UHDになって劇的に変わったという印象が薄いだけだと思う。
人物の近景や街並みは十分に細かく、時折少し甘く見えるシーンもあるが、その傾向はUHDでも大きく変わらない。『アイアンマン』のようにBlu-rayでのフィルム感を除去したようなアップコンバートらしさを感じる仕上がりとは違い、本作は元のディテールや質感を比較的そのまま残しているのが良い。
色合いは少し暖色系寄りで、全体的にフィルムらしい落ち着いたトーン。作品自体がシリアスで暗めな作風なので、その雰囲気にもよく合っている。ハルクの緑も2003年版の鮮やかな色よりかなり暗く、より重たい印象。
そしてUHDで最も大きな違いを感じるのがHDR。SDRと比べると明部はしっかり伸び、黒はさらに深くなっている。色の鮮やかさも大きく違い、Blu-rayでも差は分かるが、HD配信版と比べるとさらに明確だった。
特に印象的なのが炎の表現。終盤のアボミネーションとの戦いでは大量の炎が画面を埋めるが、SDRでは全体が薄いフィルターをかけたようで、黄色っぽい大きな塊に見えてしまう。それに対して、HDRでは光そのものが強く感じられ、炎の濃淡や周囲への照り返しまでかなり立体的に見える。映像の設定を間違えたかと思うほど差が感じられた。
街中の細かな電飾やライトも潰れにくく、夜のシーンではHDRの恩恵がかなり分かりやすい。炎に照らされたアボミネーションの皮膚や筋肉も生々しく、巨大な生物としての質感がしっかり伝わってくる。
Disney+の4K/HDR配信版も傾向は近く、解像感そのものよりもHDRによる明暗と色の強化が大きな魅力。
2008年作品として十分な解像感を保ちつつ、HDRで夜景や炎、ハルクたちの質感が大きく引き上げられている。UHD化による意味は感じられるものだった。
技術仕様・マスター情報:IMDb Technical Specifications、Blu-ray.com、メーカー公開情報等を参照
音声レビュー
やはりハルクとアボミネーションは重量級。
ハルクの雄叫びやアタックは物凄い迫力。
アクションシーンではかなり積極的。
静寂と喧騒、どちらもしっかり。
DTS:Xである意味が薄い。
ある意味、UHD化で最も期待していたのが音声だった。
DTS:Xになり、あれだけ派手なアクションがどう変わるのかと思ったが、正直なところ高さ方向の恩恵はかなり少ない。トップスピーカーはほとんど使われず、印象に残るのは一部のヘリや雷雨くらい。上空を飛ぶものや頭上にある音でも、きちんとトップへ分離するというより、従来通りリア側を中心に鳴らしている場面が多い。
『アイアンマン』では元のサラウンドを大胆に高さ方向へ展開していたため、余計に差を感じる。本作には大きなアクションシーンがいくつもあるだけに、DTS:Xならもっと立体的に使ってほしかったところ。
ただし、元となる5.1ch系のサウンド自体は非常に優秀。ダイナミックレンジはかなり大きく、ハルクやアボミネーションの動きには強烈な重量感がある。着地やパンチ、壁や車を破壊する音はしっかり低域まで伸び、巨大な身体が暴れていることを全身で感じられる。
銃撃や爆発、飛び散る破片などもサラウンドチャンネルを積極的に使い、方向感とスピード感はかなり高い。特に軍との戦闘や終盤の市街地戦では、音が次々と周囲を飛び交い、映像の勢いをそのまま音でも支えている。
元のサウンドが良いだけにDTS:X化への期待も大きく、その分トップスピーカーの消極的な使い方には落胆した。
それでも、パワーとスピード感だけならMCU作品の中でもかなり上位。普通のサラウンド作品として見れば十分におすすめできる。
オブジェクトオーディオ対応の激しいアクション作品としては珍しいほど高さ方向を使わないが、ハルクらしい重量感と荒々しさはしっかり味わえるサウンドだった。
聞きどころ
「聞きどころ」は見どころを含むシーンでもあります。
そのため「聞きどころ」には、シーン内容に関するネタバレが含まれます。
未視聴の方や事前情報を入れたくない方はご注意ください。
一方で、短時間で見どころを把握したい方、ネタバレを気にしない方には参考になる内容です。
軍隊がファベーラに
ちょい見せハルクで暴れ回る。サラウンドはまぁまぁ。
軍隊が大学に
変身時が一番の迫力。雄叫びが最高に気持ちいい。
vs アボミネーション
スピード感のある重量級バトルが最高に楽しい。
総評
MCU初期の作品であり、その後ブルース・バナー役も交代したことから、シリーズの中では少し影が薄くなってしまった印象がある。
ただ、後のMCUが作品ごとに明るさやユーモアを強めていったことを考えると、本作のかなりシリアスでダークな作風はむしろ大きな個性になっている。逃亡劇や軍事アクション、迫力のモンスター映画のような終盤まで、今見るとかなり異色で、その荒々しさが好きなのだ。
それだけに、ハルクを単独で主役に据えた続編が長く作られていないのはやはり寂しい。『シー・ハルク』のように世界観を広げる作品はあっても、本家ハルクが本気で暴れ回る物語はもっと見てみたい。
ハルクというキャラクターの人気と、この映画自体の人気はまた別だと思う。だからこそ、アボミネーションのようにハルクが全力で戦える相手を用意した、重量感のある単独作品をもう一度見たくなる。
4K UHDは映像も音声も劇的に生まれ変わったというほどではないが、もともとのBlu-rayの完成度が高く、HDRによる炎や夜景の強化、迫力ある低音とサラウンドによってホームシアターとの相性は十分に良い。
パワフルで、とにかくタフ。能力だけ見れば非常にシンプルなのに、それがここまで唯一無二の個性になるのがハルクの魅力だと思う。その力強さをしっかり描いた単独作品として、今でも好きな一本だ。
公式予告編
※予告編は本編とは画質・音質が異なる場合があります。
