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あらすじ
休暇先で知り合った一家から、自宅へ遊びに来ないかと誘われたアメリカ人夫婦とその娘。
気さくで開放的な相手に好感を抱いた一家は、その招待を受け、郊外にある人里離れた家を訪れる。
最初こそ穏やかな週末が始まったように見えたものの、宿主の言動には少しずつ違和感が混じり始める。
失礼だと思われたくない、空気を壊したくないという気持ちから、小さな不快感を飲み込んでいく一家。しかし、その遠慮につけ込むように相手の態度は徐々にエスカレートしていく。
やがて彼らは、この家族が見せていた親しげな姿の裏に、危険な本性が隠されていることに気づく。
「嫌だ」と言えない人間の心理を利用した、不穏な家族同士の週末を描くスリラー。
作品レビュー
タイトルと内容が、これほど分かりやすく噛み合った映画も珍しい。
本作は2022年のデンマーク映画『Speak No Evil』、日本では『胸騒ぎ』のタイトルで公開された作品のハリウッドリメイク。
旅行先で知り合ったパディとキアラ夫妻から自宅へ招待されたベン、ルイーズ夫妻は、娘のアグネスを連れて彼らが暮らす田舎の一軒家を訪れる。
最初こそ楽しい家族交流のように見えるものの、パディの言動にはどこか違和感がある。
そして時間が経つにつれて、その小さな違和感が少しずつ異常なものへ変わっていく。
とにかく素晴らしかったのが、パディを演じるジェームズ・マカヴォイ。
鍛え上げられた身体に豪快な振る舞い、一見すると社交的で面倒見の良い人物にも見える。しかし、表情や声のトーンが少し変化するだけで、一気に「こいつは危ない」と感じさせる。
美しい田舎の景色の中に一人だけ異質な人間がいるような雰囲気で、その存在自体が映画の恐怖になっていた。正直、最初からかなり危ない雰囲気は出ているので、「よくこの家まで付いて行ったな」とは思ってしまう。
ただ、そこからが本作の面白いところ。
明らかにおかしいと思っても、せっかく招待してもらったから。相手に悪く思われたくないから。場の空気を壊したくないから。一つひとつなら理解できなくもない遠慮や気遣いによって、引き返すタイミングを少しずつ失っていく。
有名な三猿の言わざる、の英語が「Speak No Evil」だが、正にピッタリ。
嫌なことに対してはっきりNOと言えない人間の心理を利用し、危険が少しずつ距離を詰めてくる構成が非常に上手い。そのため、ジャンプスケアを連発して驚かせるようなストレートなホラーとはかなり違う。
何かがおかしい。でも決定的に逃げ出すほどなのか分からない。
そんな状態が続くことで、「そろそろ本当にヤバいんじゃないか」という緊張感が徐々に膨らんでいく。この忍び寄るタイプの恐怖はかなり好みだった。
リメイク版を観た後にオリジナルの『胸騒ぎ』も観たが、基本的な設定やストーリーラインはかなり忠実に受け継いでいる。
ただし、作品から受ける印象は随分違う。
オリジナルはもっと救いがなく、観終わった後まで嫌な気分を残すような強烈な作品だった。
対してリメイク版は、ジェームズ・マカヴォイを筆頭に俳優の演技や映像による見せ方が非常に強く、終盤には籠城戦まで用意されるなど、かなりハリウッド映画らしいエンターテインメントへ変化している。
この変更は賛否があるだろうが、個人的には展開の緩急や俳優の演技力の点でリメイク版の方が断然好みだった。オリジナルが持っていた「人間の善意や遠慮につけ込む恐怖」という核は残しながら、より多くの人が楽しめるスリラーとして再構築されている。
少しずつ距離を詰めてくる異常な人間と、それを拒絶できない人間。
そして何より、それを体現するジェームズ・マカヴォイの圧倒的な存在感。
派手に驚かせるホラーよりも、じわじわと「何かがおかしい」と感じる作品が好きなら、かなり相性の良い一本だと思う。
メタデータ
映像レビュー
風光明媚な景色と人間の異常性を対比させる圧倒的な4K映像美
まさに4Kと呼ぶにふさわしい、素晴らしい映像美。
曇りを感じさせないシャープな映像で、レンガ造りの美しい観光地から田園風景、海辺の店まで非常に精細に描かれている。
特に遠景の空撮は風景映像として成立するほど美しく、穏やかで風光明媚な土地と、そこで次第に露わになっていく人間の異常性との対比も印象的だ。
夜間でも解像感はほとんど落ちず、細部までしっかり見通せる。
Dolby Visionの効果も優秀。
日中は自然光の強さが十分に感じられ、明るい観光地の開放的な空気を気持ちよく表現。
一方、夜になると暗い部分はしっかり黒く沈み、人里離れた一軒家と周囲を取り囲む森の深さが際立つ。その中で車のヘッドライトや室内のぼんやりとした照明が浮かび上がり、明暗のメリハリも申し分ない。
色彩についても過度に鮮やかにすることなく、自然な景色や肌、建物をバランス良く描写している。
目立ったノイズはほぼ皆無。それでいてわずかに映画らしい質感も残されており、クリア一辺倒ではない色調も含めて非常に好みの絵作りだった。
配信4Kとしては最高クラスと言っていいだろう。
解像感、暗部、光、色彩のどこを取っても隙がなく、4K/Dolby Visionの良さを存分に味わえる映像だった。
技術仕様・マスター情報:IMDb Technical Specifications、Blu-ray.com、メーカー公開情報等を参照
音声レビュー
厚みをプラスする程度で目立たない。
銃声や爆発は悪くない。
トップで若干、後ろはほぼ無し。
静かな舞台ばかりで、雰囲気作りが優秀。
有効だが、ほんの少し。
Dolby Atmos対応ではあるものの、映像とは対照的に非常におとなしい音作り。
ある程度の閉鎖空間を舞台にした作品ではあるが、サラウンドを積極的に活用するタイプではない。
本作は派手な音響効果ではなく、会話や登場人物の振る舞いによって徐々に不安を高めていく作品。そのため環境音は丁寧に作られており、郊外では虫の声などが自然に配置され、田舎特有の静かな空気感を作り出している。
あくまで映像や会話を邪魔せず、雰囲気を下支えするようなサウンドデザインだ。
ただし、マルチチャンネルとしての活用度はかなり低い。
リア側の出番は非常に少なく、Dolby Atmosのトップスピーカーも終盤になってようやく存在感を感じる程度。
銃撃や爆発など一部では瞬間的に音が強くなるものの、緻密な定位や移動感を楽しませるような作りではなく、場面によっては効果音よりBGMの方が印象に残るほどだった。
低音についても非常に補助的。
必要な場面でわずかに厚みを加える程度で、LFEによる重さや衝撃を楽しめる場面はほとんど無い。
作品そのものが静かな心理的圧迫感を重視しているため、方向性として間違っているわけではない。
しかし、Dolby Atmosやマルチチャンネルという観点から評価すると、積極的に褒められる要素が少ないのも事実。
圧倒的な映像美と俳優陣の演技が強烈な印象を残す一方、音響はあくまで作品を静かに支える存在に徹した仕上がりだった。
聞きどころ
「聞きどころ」は見どころを含むシーンでもあります。
そのため「聞きどころ」には、シーン内容に関するネタバレが含まれます。
未視聴の方や事前情報を入れたくない方はご注意ください。
一方で、短時間で見どころを把握したい方、ネタバレを気にしない方には参考になる内容です。
本性があらわに
籠城戦で銃撃に爆発。トップも少しは活用。
総評
とにかくジェームズ・マカヴォイの存在感が素晴らしかった。
初対面から妙に距離が近く、親しげなのにどこか危ない。自分ならまず家に招待されても行かないだろうと思うほど、最初から不穏な雰囲気を漂わせている。
それでも決定的なところまでは踏み込まず、少しずつ違和感を積み重ねていく。この危うい人物を演じ切ったマカヴォイの演技が、本作最大の魅力だったと思う。
オリジナルの『胸騒ぎ』はかなり淡々としており、突然状況が大きく動くような展開も多かった。
対してリメイク版は、その過程をかなり丁寧に描いている。
美しい景色とは対照的に、登場人物たちの表情や会話から徐々に嫌な空気が漂い始める。派手な恐怖演出に頼らず、「この人たちと一緒にいて本当に大丈夫なのか」という不安を膨らませていく見せ方が抜群に上手かった。
オリジナルが持っていた強烈な後味は薄れたものの、個人的には人物描写や演技、エンターテインメントとしての完成度を含めてリメイク版の方が好みだった。
映像についても非常に美しく、4K/Dolby Visionの品質は文句なし。
反面、Dolby Atmosはかなり抑えたデザインで、ホームシアターで派手なサラウンドを楽しむ作品ではない。ただ、静かな田舎に漂う不穏な空気は丁寧に表現されており、ホラーらしい雰囲気を味わうという意味ではホームシアターとの相性も悪くない。
ジャンプスケアや怪物ではなく、「この人、なんかヤバい」から始まる人間そのものの怖さを楽しむ作品。
こういうタイプが好きならかなりハマるはずで、あらすじを読んでピンと来た人なら、大きく期待を外すことはないだろう。
公式予告編
※予告編は本編とは画質・音質が異なる場合があります。
