作品データ
あらすじ
幼い頃、両親と5人きょうだいで古い屋敷「ヒルハウス」に暮らしていたクレイン一家。そこでは説明のつかない出来事が次々と起こり、家族は大きな傷を残したまま屋敷を離れることになる。
それから年月が流れ、成長したきょうだいたちはそれぞれ別の人生を歩んでいた。しかし、末娘ネルを巡る悲劇をきっかけに再び集まることになり、封じ込めていた幼少期の記憶と向き合わざるを得なくなる。
作品レビュー
マイク・フラナガンが脚本・監督・シリーズ構成を担った『ザ・ホーンティング・オブ・ヒルハウス』は、シャーリイ・ジャクスンの名作小説をそのまま映像化するのではなく、設定やモチーフを活かしながら再構成したホラードラマ。物語の中心となるのは、幼少期をヒルハウスで過ごしたクレイン一家と、そこで経験した出来事を大人になっても引きずり続ける5人きょうだいだ。
本作の特徴は、過去と現在を頻繁に行き来しながら、一つの家族の記憶を少しずつ組み立てていく構成にある。同じ出来事でも、見る人物が変われば受け止め方もまったく違う。話数ごとに家族それぞれへ視点を移すことで、最初は分からなかった言動の理由や、別の人物から見えていた景色が後になってつながっていく。
長男スティーブは、超常現象そのものを信じておらず、幼少期にヒルハウスで経験した出来事にも現実的な理由を求めようとする人物。家族の体験を題材に本を書くことで距離を取ろうとするが、その姿勢は他のきょうだいとの間に溝を生む原因にもなっている。
長女シャーリーは葬儀の仕事に携わり、死や遺族の悲しみと日常的に向き合っている。家族の中でも責任感が強く、何とか皆をまとめようとする一方、自分自身も過去の傷を完全には整理できずにいる。
次女テオは子供を相手にする心理職に就き、触れることで相手や物に残った感情を感じ取る特殊な感覚を持つ。そのため普段から手袋を着け、人との間にも一定の距離を置いている。強気で冷静に見えるが、それも他人の感情から自分を守るための壁のように感じられる。
双子の兄ルークは、幼い頃からヒルハウスで恐ろしい体験を重ね、大人になってからは薬物依存に苦しんでいる。家族からも信用を失いかけているが、彼にしか見えていなかったものや幼少期の記憶があり、単純に依存症の問題だけでは片付けられない人物として描かれる。ルークと双子の妹ネルは、幼い頃から「ベントネック・レディ」と呼ばれる存在に怯え続け、大人になってからも睡眠や精神面の問題に苦しんでいる。きょうだいの中でも特にヒルハウスの影響を強く受けており、その孤独や恐怖が物語全体を動かす重要な存在になっている。
父ヒューは、家族を守ろうとしながらも、ヒルハウスで起きたことの多くを子供たちに語らずに生きてきた人物。その沈黙によって家族との距離が生まれている一方、彼だけが知っている当時の出来事も多い。母オリヴィアは建築や家の改修に関わる才能を持ち、子供たちを深く愛する母親だが、ヒルハウスで過ごすうちに少しずつその影響を受けていく。両親もまた、子供たちとは違う形でこの家に人生を変えられた存在になっている。
幽霊屋敷を題材にした作品ではあるが、ジャンプスケアを連発して驚かせるタイプではない。暗い廊下や部屋の奥に何かがいそうな空気を長く維持し、気づかない場所にまで不気味さを仕込んでくる。背景には大量の“隠し幽霊”が配置されているそうだが、自分は初見ではまったく気づかなかった。それでも無意識に「どこかに何かいる」ような感覚が残るのだから、その使い方はかなり効果的だったと思う。
ベントネック・レディやレッド・ルームといった印象的な存在も、単純に怖いものを登場させるためだけではなく、物語が進むにつれて意味合いが変化していく。一度見た場面が後になって別の意味を持ち始める構成が多く、序盤の何気ない描写まで伏線としてつながっていくのが面白い。
そしてヒルハウスそのものも単なる舞台ではなく、長い廊下や閉ざされた部屋、古びた階段まで、家そのものが登場人物の一人であるかのように存在感を持っている。幽霊による恐怖と、家族が抱える心理的な傷を重ねることで、喪失、依存、罪悪感、家族の断絶といったテーマが少しずつ浮かび上がってくる。
前半はホラーとしての不気味さが強いものの、後半になるほど家族ドラマの比重が大きくなっていく。怖い出来事の理由が明かされるにつれて、それまでの裏側を理解できるようになり、最終的には「幽霊が怖いドラマ」というだけではまったく収まらない。
伏線の置き方も非常に細かく、一度最後まで見た後なら、最初から見直した時に人物の表情や背景の意味まで違って見えそうな作品。後に『ザ・ホーンティング・オブ・ブライマナー』へ続くアンソロジー第1作でもあるが、10話というドラマだからこそ、一人ひとりの傷や家族の歴史をここまで濃く描けたのだと思う。
ホラーとしての怖さもあるが、それ以上に悲しく、家族について考えさせられる一本だった。
メタデータ
映像レビュー
第6話「Two Storms」の長回しによる時間と空間の連続性
2018年の作品だが、現在見ても十分に高画質と言える4K映像。
本作はARRI ALEXA 65とPrime 65レンズで撮影されており、高い解像感を持ちながら、あえてコントラストを柔らかくし、暗部が滑らかに黒へ落ちる作りにしている。実際の映像しっかりとした自然な解像感があり、細部まで十分に4Kらしさを感じられる一方、全体にはうっすらとブルームをかけたような柔らかさもある。特に過去を描く場面ではその傾向が強く、単にシャープさを追求するのではなく、記憶を振り返るような映像的演出としても機能しているように感じる。
色調も少し緑寄りで、派手な色彩はほとんど使わず、シリーズ全体をかなり均一なトーンで統一。ヒルハウスの冷たさや古さ、物悲しい雰囲気を最後まで崩さず、映像そのものが作品の空気を作っている。
物語自体が暗い内容で進むため、映像も暗部を多用する。地下や夜の場面では黒をしっかり沈める一方、必要な部分はきちんと階調を残しており、暗いだけで見づらい映像にはなっていない。背景には数多くの隠し幽霊が仕込まれているため、二周目では暗がりや部屋の奥までじっくり探す楽しみもありそうだ。
そして特に印象的なのが第6話「Two Storms」。この回は全編を一本の長回しのように見せるため、実際にはわずか5本の長回しで構成され、最長ショットは17分を超える。制作は約6週間にわたって詳細なリハーサルを行い、ヒルハウスと葬儀場のセットも、この回の撮影を成立させる前提で設計されていたというから気合いの入れようが分かる。過去と現在をカットに頼らずシームレスにつなぎ、家族の記憶と時間が同じ空間に重なっているように見せる演出は、シリーズ全体でも際立っている。
派手な映像効果で押す作品ではなく、暗さ、柔らかな質感、抑えた色彩によって不穏さを積み上げていくタイプ。終始安定した高画質と、物悲しさをまとった独特のルックが印象に残る映像だった。
技術仕様・マスター情報:IMDb Technical Specifications、Blu-ray.com、メーカー公開情報等を参照
音声レビュー
ホラーらしい使い方で重みもあり。
ジャンプスケアの威力は強い。
使う所はちゃんと感じられる。
郊外の家の静けさが良い感じ。
Ep6はずっと雷。他の怪異でもある程度活用。
怪異の存在感をしっかり体で感じさせる、パンチのあるDolby Atmos音声。
怪異が現れる場面では、壁や扉を叩くような音がかなり強い圧で鳴り、低音も伴って一気に空気が変わる。何かが追いかけてきたり、周囲を動き回ったりする場面では定位も明確で、姿が見えなくても音だけで存在を感じさせる。
衝撃音だけでなく、人の形をしたようなものが絡む場面では、低音と包囲感を組み合わせ、スピーカー全体を使って重さを表現。派手なアクション作品とは違うが、一瞬の音で驚かせるだけではなく、空間そのものを不気味にするサラウンドとしてかなり効果的。
トップスピーカーも怪異の場面ではしっかり使われる。頭上や高い位置から響く音を配置することで、視界に入らない場所にも何かがいるような感覚を作り、Atmosらしい高さ方向の表現も十分。
そして音声面でも第6話「Two Storms」は特別。この回では約50分の大半に音楽をほとんど使わず、雷雨そのものをサウンドの中心に据えている。サウンドチームは何種類もの異なる雷音を重ね、低く加工したものや、部屋ごとに響き方を変えた雷を使い分けたそうで、映像だけでなく音の作り込みも素晴らしい。雨や雹の音も場所によって質感を変え、長回しのカメラが家の中を移動するのに合わせて、音響空間も連続的に変化するよう設計されている。
そのためこの回では、トップスピーカーが長時間にわたって雷を鳴らし続けるというかなり珍しい使われ方になる。中盤以降に怪異が強くなると、雷雨、環境音、サラウンドが重なって空間全体を覆い、第6話だけでもDolby Atmosの恩恵はかなり大きい。
シリーズ後半ではやや落ち着いた場面が増えるものの、ジャンプスケアや怪異の見せ場ではしっかり鳴らし切る。暗い作品の雰囲気に合った重さと包囲感があり、必要な場面ではトップを含めて積極的に使う。
ドラマ要素が強いので、ゴリゴリのホラー映画のような派手さではないが、恐怖を空間で感じさせるサラウンドとして完成度は高い。Dolby Atmosで観ることで、ヒルハウスの不気味さをより深く味わえる音響だった。
聞きどころ
「聞きどころ」は見どころを含むシーンでもあります。
そのため「聞きどころ」には、シーン内容に関するネタバレが含まれます。
未視聴の方や事前情報を入れたくない方はご注意ください。
一方で、短時間で見どころを把握したい方、ネタバレを気にしない方には参考になる内容です。
ヒルハウスから逃亡
どんどん!と周りからうるさいくらいに攻めてくる。
子供時代の記憶
色んな方向から壁叩き。文字通りパンチがある音。
給仕用エレベーターで遊ぶ
トップを少し使うジャンプスケアシーン。
葬儀前の会話
Ep6のほぼ全体で雷がトップで延々鳴り続ける。更に怪異が激しくなるところが中盤以降。
総評
思っていた以上に家族ドラマの比重が大きかったホラーシリーズ。
過去と現在を何度も行き来する構成で、序盤は子供時代と大人時代の人物がなかなか結びつかず、家族関係を把握するまで少し時間がかかった。ただ、それぞれの性格や立場、過去に何を抱えているのかが見えてくると、一気に面白くなっていく。
子供の頃は同じ家で暮らしていたきょうだいたちが、大人になってからはまったく違う人生を歩んでいるのも非常に現実的。表面上は普通に生活していても、誰もが過去の傷を抱えていて、そのどこかには共感できる部分があると思う。
前半はジャンプスケアや怪異そのものの怖さも比較的強いが、物語が進むほど家族ドラマの比重が増していく。後半になると、それまで怖いだけだった場面や存在の意味まで少しずつ変わって見え始め、単純な幽霊屋敷ものではないことがはっきりしてくる。ホラーとしての強さを持ちながら、それ以上に喪失や家族の傷を描くドラマとして印象に残った。
家族同士のすれ違いや誤解、相手を思っているのにうまく気持ちを伝えられないもどかしさもかなりリアル。長い時間をかけて一人ひとりを掘り下げるドラマだからこそ、終盤になるほど小さな言葉や行動にも重みが出てくる。
映像面では独特の色調や暗部表現に加え、第6話の長回しなど技術的な見どころも多い。音響もジャンプスケアではしっかり強く、怪異が激しくなる場面ではトップスピーカーまで活発に使われるため、ホラー作品としてのホームシアター的な魅力も十分だった。
背景に大量の隠し幽霊が仕込まれているなど、一度見終わってから知ると気になる要素も多い。物語の仕掛けや人物関係を理解したうえで二周目を見ると、最初とはかなり違った作品に見えそう。
一般的なホラーとは違い、怖さの先にある家族の喪失や再生まで丁寧に描いた作品。ホラーが好きな人はもちろん、重めの家族ドラマが好きな人にも刺さるシリーズだった。
予告編(海外メディア)
※予告編は本編とは画質・音質が異なる場合があります。
